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「モデル契約書ver.2.1」と「マナーブック」

もうひとつご紹介する本年度の行政の動きは「モデル契約書ver.2.1」と「マナーブック」のリリースです。

近年、日本においても、海外と伍していけるスタートアップを立ち上げることが大きな課題になっています。この際、特許などの知的財産の活用が必要であることはいうまでもありません。

経済産業省と特許庁が提案したモデル契約書は、「オープンイノベーション促進のためのモデル契約書」と銘打っています。つまり、大学の研究成果を事業化したり、大企業を連携したりして新しい事業を創出する、いわゆるオープンイノベーションでの契約を想定しています。

この背景には、実は、スタートアップの立ち上げがうまくいかない理由として、大学からの技術移転がスムーズに進まなかったり、大企業とスタートアップの協業が知財活用の利害の不一致で破綻したりといった事態が見受けられることがあげられます。

大学の研究者にとって研究成果はいち早く学会などで公表したいですし、特許権などの知的財産権は大学としては収入源として手元に置いておきたいでしょう。一方、スタートアップにとっては、発明など知的財産が事業のコアであって、自由に使えないことは事業の足かせとなってしまいます。両者の利害を一致させるのは、なかなかハードルが高いです。

また、大企業とスタートアップの関係においては、従前から、資本的に有利な大企業に事業の主導権を握られて、知財についても大企業に吸い上げられてしまうような事例が散見されました。

このような問題は、あらかじめ契約で取り決めておくことで、双方にとってバランスよく、また、効率的にスタートアップの事業を立ち上げることができるはずです。そこで、経済産業省と特許庁で作成したのが「オープンイノベーション促進のためのモデル契約書」です。

新しいビジネス創出を目指す中小企業やスタートアップの方々には、是非、一度ご覧なっていただくと連携を進めるうえでの気づきも多いと思います。

更に、今年度リリースされたのが「オープンイノベーション促進のためのマナーブック」です。

マナーブックといった柔らかい表現ですが、前述のような連携において問題になった事態は、自分の立場や利益のみを主張して相手方を慮ることに欠けた場合に、その多くが起こってきていることから、パートナーシップを組むための心得(マナー)を説いています。

中小企業やスタートアップの方々に、「大学や大企業とオープンイノベーションを進める際には、こういったことで揉めるのか」とあらかじめイメージを持っていただくためにもお勧めです。

国(経済産業省や特許庁)もオープンイノベーションによるスタートアップビジネスを応援しています。これらの取り組みをうまく活用していきましょう。

(メルマガ「IPビジネスだより 2024年4月号」から転載)